夜が落ちる音をぼくは聞いた
それはいつのことだったのだろう
思い出せないくらい遥か昔の
それは千年前、
半世紀前、
一昨日か、
もしかしたらつい10分前のことだったのかもしれない

薄い硝子に石を投げたかのような
小さなひび割れがこの場所にはある
その隙間からぼくは朝が昇るのを待っていた

カーテンを閉ざした部屋の片隅で
微睡んで見た夢の残光が溶けていく
残されたのは夜の中の夜の闇
三日月のように細く細く擦り切れた
あれは一体誰の心だっただろう
思い出せないくらいにぼくは薄情になってしまったかな


言葉のない責め苦はやかましい


冷たい床が変わりだす
いつか見た景色を思い出す
一面に広がった青空と
視界を横切る飛行機雲と
ほんの少し
早く夜になればいいと思っていたこと

真っ直ぐな背骨が軋む夜だ
記憶がただただ巡る夜だ
音のない言葉はやかましい
耳を塞いで秒針を数えてみても
短針はいつまで経っても同じ場所
帳の向こうに星が見えていることだって
いつしかぼくは信じられなくなっていた

吐けなかった嘘が肺の底に溜まっている
悲しみが気道につかえて声が出ない
ぼくにとって恐ろしいもの全てを星にして燃やしてしまえれば
きっとこんな夜は来なかった

それなのに何故、
ぼくはひとりで生きられるようになっただろう

裸の足で立ち上がる
いつかの青空を踏み締める
平均台の上にいるような危うさで
ぼくはずっと目蓋を閉じたまま
カーテンの合わせ目に手を掛ける
眩しいだけの輝きは嫌いだった
早く夜になればいいと思っていた
だけどあたたかい光が欲しかった
それは本当は今だって、





さんざめく銀河が見放した
ここは最果てにも似た夜の闇
それでも隣りの部屋ではきっと誰かが笑っている
その寝息が安らかであればいいとぼくは思う
ぼくには関係のない全ての物語がやさしいものであればいい





夜が割れていく音をぼくは聞いた
それは確かに今この瞬間
夜明けまではまだ遠い
ぼくは秒針を数え続ける
ひとり目蓋の裏で星を燃やして
それがよりあたたかな色に塗り潰されることを待っている
綻んだ傷の隙間から
この部屋に朝陽が差し込むときを、待っている


夜明け前が一番暗い