気づいていなかったでしょう
耳鳴りのように呼び続けていたわたしの声に

覗き込んだきみの左胸
心の在り処には時計がひとつ
造花のような完璧さで収まっていた

動き出したときは満月だった
始まりの期待に胸は高鳴り
壊れそうなくらいにチクタク、チクタク、
望みどおりの音を奏でていた

手のひらの中には大切なもの
のんびり構えては全てを受け入れ
何が欲しいのかも分からなくなった
片付けられない思い出が積み上がる
逃げられない道に迷い込む
続きのページは全てが白紙で
きみはいつしか途方もなく立ち尽くす

望んでいたものは何だった、
何がきみを動かしていた、

祈りの声がやむ夜に、わたしがこっそり時計を止めた。

呼んでいたことに気がつかなかったでしょう
るり色の闇があまりに明るくて

願いごとはひとつ、たったひとつ
額縁で切り取ったような星空の下できみと
一生に一度の約束をしたかった

重くなる身体を引きずりながら
滑り落ちていく光の粒を見送って
手を伸ばした先にはもう何もないと分かればいい

手紙をひとつ、送ります
ひとりでどうか読んでください

隣りのきみがわたしを見ていないことを知っていて
リズムを刻む時計の音に、
きみの鼓動に恋をした

耳を塞いでいても聞こえてくるのは
終わりなどなければいい、というきみの声
蛍火のような儚いおもいを抱え続けて
ただ目の前のきみだけを信じていたかった

るり色の空、欠けた月
ガラスの針は24時を指し示す

音もなく降り注ぐ、
隠すことなくあふれ出す、
出会った頃の鮮やかさだけは失わないまま
真っ直ぐな瞳で夜に立つ
月が消えるまでのカウントダウンを、口の中で呟きながら


ほたるが丘で待つ